何でも言ってやろう

国や政治についてタブーなしに語っています。誰も見なくても、炎上しようとも。

日本の給与はなぜ上がらないのか?⑩

お金

※写真はイメージです

前回、日本の給与を上げるために、「地方・中小零細企業」を変革する必要があると言いましたが、それにしても、なぜ地方経済は、これほどまでに疲弊してしまったのでしょうか。

 

少し過去を振り返ってみましょう。

 

これまでの地方経済


以前は、地方では農業や林業が主要産業の1つとなっていましたが、1985年のプラザ合意以降、円高により海外からの安い農産物や木材が輸入され、地方の農業や林業が衰退しました。
製造業も安い賃金と円高対策のため、アジアに工場の移転を進め、日本国内の地方にあった工場は閉鎖されていきました。

 

その後、地方への経済対策として、公共事業による大規模工事を各地で行うことで、工事を受注した建設業が活況に湧き、地方経済を支えました。
公共事業は地方経済を活性化させたのは良かったのですが、それは単なるバラマキであったため、利益誘導政治の温床となり、巨額の財政赤字を抱えることになりました。
その後、小泉内閣により公共事業は段階的に削減され、地方経済は衰退の一途を辿りました。

 

近年では、このような地方の惨状を打破するべく、地方創生の名の下に改革を進めようとしていましたが、アイデアも、人材もない地方では、中央からの地方交付金や企業の誘致などに期待するだけで、自分たちで新たな産業やサービスを生むことができませんでした。

また、産業がモノからコトにシフトする中、地方自治体は新たなサービス型の産業を創出する発想ができず、以前と変わらず、箱物を作るだけで運用やソフト面に課題が生じ、上手くいきませんでした。

地方交付金をアイデアがなく、バラマキに過ぎない商品券や一時金支給などの効果が一時的な政策を行ってしまうケースもありました。
こうした状況から、地方創生は困難を極め、名ばかりで進んでいません。

 

アフリカのDX

地方の突破口を検討するために、発展途上国の事例を振り返ってみたいと思います。

 

以前は、貧困や飢餓に苦しむ人が多かったアフリカで、携帯電話の普及が進むことはないと言われて無視されたマーケットとなっていましたが、従来のイメージを覆し、アフリカは急速に発展を遂げていると言われています。
精緻な統計は難しいですが、アフリカの携帯電話の普及率としては、一説には20歳以上で80%と言われています。

 

アフリカは急速に携帯電話によるデジタルの普及が進んでいると言われていますが、背景には既存インフラがなかった点があります。
例えば、日本でも各社がインターネットバンクのサービスを提供していますが、地方にもJAバンク郵貯などの支店があまねく存在するため、携帯電話の操作が分からないと、支店の窓口でお金を振り込んでしまいますが、アフリカではそのような支店自体がなく、代替えの方法がないので、生活に必要な知識として無理をしてでも携帯電話を用意し、操作を覚えています。
日本では、社会インフラが地方の隅々まで整っていることが、デジタルへのシフトを遅らせている側面もあります。

 

アフリカでは下記のようなデジタルサービスが広がっており、地域によっては、日本の地方の方が旧態依然とした仕組みになっているのかもしれません。

 

■デジタルサービス
電子マネー 2007年にケニアで誕生したモバイル送金サービス「M-Pesa」により、メール送信と同じ感覚で金銭のやりとりが可能
店舗での支払い、知人や取引先への送金にも活用
農業プラットフォーム ・アプリ「M-Farm」「Agro-Hub」などにより、天候や市場の作物価格をSMSで通知
・農家同士が自由に情報交換を行えるプラットフォームを提供
・作物や家畜の健康状態など、専門家のアドバイスを受けられるサービスもある
農業保険 アフリカでは農業保険加入者が少なかったが、ケニアのアプリ「Kilimo Salama」などでは、種苗購入時に有償オプションで収入保証する保険サービスを提供し保険が広がっている
遠隔医療 ガーナ、南アフリカエチオピア、マリなどで遠隔医療が広まっている
動画配信 ナイジェリア発のアプリ「IROKOtv」では、ナイジェリア映画をはじめ、ボリウッド韓国映画まで、世界中の映画作品やテレビドラマ6000本以上を配信
お祭り ・ナイジェリアの祝日「Sallah Day」ではラム肉を振る舞うパーティの習慣があり、アプリ「Ramlocater」でパーティを開催している場所を探すことが可能
GPSを利用してパーティが開催されている場所を探し、ホストへの参加申請が可能

 

ちなみに、アフリカでは、ソーラーなどの充電システムを用意している学校もあり、自分の携帯電話を充電するために、子供をお使いとして学校に行かせる親が増えたという話もあります。

 

日本の地方の取組

日本の地方とアフリカを同列で考えているわけではありませんが、アフリカではデジタル化が加速しており、従来の私たちがイメージしていたアフリカではなく、変革により生活レベルが向上してきているようです。
日本の地方は、高齢化、過疎化、農業離れなどの様々な課題を抱えていますが、アフリカの事例と同じように、課題解決の選択肢として、デジタルが活用できるのではないかと考えられます。

 

現在、日本ではDXの必要性が叫ばれており、多くの大企業ではデジタルを活用した新たなサービスの創出に取り組んでいます。

新たなデジタルのサービスを実現するためには、そのサービスの実現性や課題などを確認するために、事前にPoC(実証実験)が必要になります。
例えば、車の自動運転の技術は、例外ケースを除けば、公道を安全に走れるレベルに来ています。
ただ、この技術を実用化するためには、実際の公道で試験的に自動運転を行ってみて、問題が発生しないか検証を行う必要があり、これをPoCと言います。
もちろん、交通量の多い都市部でPoCを行うのは、交通事故のリスクがありますので、地方で実績を積むことができれば助かります。
また、PoCでも実際に顧客を乗せて交通網として活用できますので、地方の交通インフラとして貢献できます。
その後、上手くいけば、サービスを本番運用し、近隣の地域へ路線を拡大し、新たな交通網として地方の生活を支援できると思います。

 

ちなみに、秋田県上小阿仁村で、日本初、自動運転サービスを本格導入した事例が、すでにありますので、紹介したいと思います。

 

www.mlit.go.jp

 

それ以外にも、地方ではデジタルを活用した新たな取組を行っていますので、いくつか紹介したいと思います。

 

長野県伊那市では、買い物難民を助けるために、ドローンを活用した買物サービスの提供を始めています。
(第19回MCPC Award 2021グランプリ・総務大臣賞を受賞)

 

smartiot-forum.jp

 

北海道天塩郡豊富町では、人手不足に悩む酪農家のために、ドローンで牛追い“スカイカウボーイ”という取り組みを行っています。
(ICT地域活性化大賞2020受賞)
現在は、ドローンの操作が手動ですが、今後は、自動飛行による自動牛追いも研究していくようです。

 

ドローンで牛追い“スカイカウボーイ”

 

デジタルに対するアレルギー

デジタルと言っても、AI、IoT、MaaS、ロボット、ドローンなど、様々なものがありますが、一般の人がデジタルといって思い浮かべるとき、それらが混ぜこぜでイメージされています。
地方創生のために、デジタルを活用しようと発言すると、AIとロボットのネガティブなイメージが先行し、一般の人から否定的な意見が上がってきます。

例えば、介護の現場は、「きつい・汚い・臭い」の3Kで、給与も安いため、退職者も多く、人不足と言われています。
介護ロボットを導入して労働環境を改善するべきと思われますが、介護士にも、お年寄りにも、心理的な抵抗感があると言われています。

 

介護士
 ・今の自分たちの仕事を奪われる
 ・自分たちの方が丁寧な対応ができる
  (ロボットだと雑な対応になる)
 ・ロボットによる事故が気になる

 

■お年寄り
 ・ロボットは冷たく、温かみのある人に対応してもらいたい
 ・人と同じようなきめ細やかな対応ができない

 

AIやロボットには少々誤解があるように思われます。
介護ロボットのイメージとして、スターウォーズC-3POのような知性を持った人型アンドロイドを想像する人もいますが、そのレベルの介護ロボットの登場は、まだ先になると思われます。
実際に、現場で使われている介護ロボットは、一般の人がイメージするところで言うと、ロボットではなく、いわゆる便利な機械になります。

 

■移乗介助ロボット
 介護士による抱え上げ動作をパワーアシストする機器

■移動支援ロボット
 高齢者の移動動作を補助する機器

■排泄支援ロボット
 ベッドサイドで排泄できるように排泄物を処理する機器

■見守り・コミュニケーションロボット
 センサーでお年寄りの徘徊や転倒を見守る機器

■入浴支援ロボット
 浴槽に出入りする一連の動作を支援する機器

 

heiwa-net.ne.jp

 

このように介護ロボットと言われても、大変な作業の一部を担ってくれる機械に過ぎず、メーカーが商品イメージを上げるために、介護ロボットと銘打ってるだけに思われます。
遠い未来には、人型アンドロイドが出てきて、介護士の仕事のほとんどを奪ってしまうかもしれませんが、それはお年寄りの言葉や状況を理解し、自己判断で世話をしないといけないので、人工知能が必要になりますが、車の自動運転よりも難しい技術のため、街中を無人タクシーが往来するようになってからになりますので、かなり先の未来になるように思われます。

また、人同士だと羞恥もあり、頼みにくいことも、ロボットであれば、ボタン一つで頼むこともできますので、業務効率化以外の利点もあります。
ただロボットにより介護が雑になってしまう問題もありますが、人不足の解決と、メーカーの技術力の進展のために機械を活用し、その課題をメーカーにフィードバックし、より良いロボットを創ってもらうことに注力した方が良いと考えられます。

その繰り返しにより品質も徐々に向上するのではないかと思います。
また、介護士の手が空くのであれば、レクリエーションや人同士のつながりの時間に注力することで、より温かみのある老人ホームを運営することもできるように思われます。

 

介護士の給料が安いという問題がありますが、日本はさらに給与の安いベトナム人技能実習生なども受け入れていますので、今後は単純労働の介護士はさらにコスト削減の逆風にさらされると思われます。
ロボットの操作やメンテナンスには、それなりの知識が必要になりますので、日本の介護士の仕事をより高度なものに変えることで、給与向上を目指すこともできるものと思われます。

 

また、このような問題は、農業、土木・建設工事、漁業、医療、教育など、様々な分野のデジタル化で課題となっていますが、新たな時代を創り、労働者が高度な仕事にシフトし、給与をアップするためにもデジタル化が必要と思われます。

 

規制緩和

最後に、規制緩和について語っておきたいと思います。

このような地方でのデジタルによるPoCを行うためには、規制緩和が必要になるケースもあります。

 

秋田県仙北市などをドローンの国家戦略特区に認定し、農作物の運搬などの実証実験を行っています。
ドローンは墜落などの事故が発生する可能性がありますが、森林などの安全な場所を自治体自らが特区エリアとして決めて、新たな取組の実証実験を行っています。

 

まずは安全性を配慮した特区で実証実験を行い、特区で上手くいけば、そのノウハウを元に、法案を検討し、日本の基準としていけば良いと思います。

車の自動運転も、2020年4月に改正道路交通法が施行され、自動運行装置を使用した運転も従来の運転に含まれることになったため、各地で実証実験が行われるようになりました。

 

地方創生の一環として、全国の各地で特区を認定して、新たなデジタルを活用した実証実験が行われています。
従来の公共投資や大企業の誘致で地方を支援しても、ハード(箱物行政)でしかなく、箱物を作ることが目的となり、運用費用の負担や活性化案が出て来ない問題で上手くいきません。
経済の中心がモノからコトにシフトする中、旧来のやり方は限界があることが分かっていますので、こうしたデジタルの取り組みが地方創生の一助となるように思われます。