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日銀・黒田総裁批判への批判

お金

※写真はイメージです

6月3日の参院予算委員会に出席した日銀・黒田総裁が「家計が値上げ許容度も高まってきている」と発言したことを発端として、テレビやSNSでは庶民の生活が苦しい中、値上げで生活が困窮すると不満が広がっています。
質疑応答でも、立憲民主党白眞勲議員が

「最近、黒田総裁は(スーパーで)食料品を買った際、以前と比べて、価格が上がったと感じるものはあったか」との質問に

「家内がやっておりますので。物価の動向を直接買うことによって感じているというほどではありません」と答弁したことに、

庶民の生活を分かっていないと批判が続出しています。

また、2021年度の黒田総裁の年間報酬は、およそ3,500万円で、金持ちには庶民の生活は分からないと、黒田総裁の退任論まで噴出してしまい、後日、黒田総裁は値上げ許容度について「発言が適切ではなかった」と火消しに追われる事態になっています。

 

news.yahoo.co.jp

 

さて、冷静に判断するためにも、これまでの黒田総裁の取り組みを振り返りましょう。

 

■黒田総裁の取り組みの振り返り

アベノミクスの一本目の矢として、黒田総裁は異次元の金融緩和に取り組みました。
これは賛否両論がありますが、日本経済という実験場でMMT(現代貨幣理論)を試しているという側面もあるように思われます。

 

実験結果としては、異次元緩和により、リーマンショック以降、円高方向が続いていましたが、円安方向に転じ、円安が追い風となり、輸出企業を中心として業績が大幅に改善しました。

 

また、黒田総裁就任前は給与は徐々に下がり続けていましたが、コロナの影響を除けば、微増するようになりました。

 

また、昨年(2021年)には、日経平均株価が30年半ぶりとなる3万円台を回復しました。

これは、日本企業の稼ぐ力が強まったことが一因だと思いますが、もちろん、日銀の異次元緩和が下支えしたと考えられます。

 

また、2%を目標としていた物価上昇率は、黒田総裁就任後にマイナスからプラスに転じ、2014年に1%台の半ばとなり、目標に届かないまでも、デフレ方向を改善することができたように思われます。
消費税率引き上げやコロナの影響もあって、物価上昇率が低い時期(マイナス)もありましたが、外部要因がなければプラスに転じたと判断しても、差し支えないように思われます。

 

また、黒田総裁の就任前に、4%台だった完全失業率は、コロナ禍前の2019年に2.2%にまで低下して改善しました。

 

■現状(2022年5月)の日本経済の状況

私は経済の専門家ではありませんので、民間調査機関の経済見通し(2022年5月)を紹介します。

 

www.dlri.co.jp

 

サマリーとしては、原油価格上昇やロシアのウクライナ侵攻など、外部環境が悪化する中、WITHコロナへのシフトにより、個人消費の持ち直しが見込め、2022年度のGDP成長率は、前年度比+2.2%と予想されると言われています。
実際、足元でも設備投資は持ち直しており、これから下振れる可能性も指摘されていますが、回復を維持する見方をしている専門家もいます。

また、足元で個人消費は持ち直していましたが、4月の値上げにより、上昇が抑えられる形になりました。
ただ、今後の予測としても個人消費がマイナスになることはないと見込まれていて、値上がり要因よりも、WITHコロナにシフトすることで、個人消費の持ち直しによる影響が下支えるすると考えられてます。

 

日本銀行ができること

基本的な話になりますが、中央銀行としての日本銀行の役割とは何でしょうか。

 

いくつかありますが、主な役割としては、お金を発行し、市場に流通させることです。

日銀がどのように発行したお金を流通させているかというと、いくつかの方法がありますが、現在、金融市場の調節に利用されている主な方法は、銀行からの国債の買い入れになります。
銀行からの国債を買い入れ、市場にお金をばら撒くことによって、企業への融資を促進し、設備投資につなげ、生産性向上や新たな事業の創出を支援しています。

 

■個別論点

テレビのニュースでは町中の買い物中の主婦やスーパー経営者が黒田総裁の発言に眉をひそめ、批判的なコメントを行っていますが、本件に関して、ここまでが議論の前提として必要な知識になります。
厳しいことを申し上げますが、上記のことを理解していない人は、日本国民を代表した顔をしてコメントすることは控えるべきと思います。
言い過ぎかもしれませんね、謝罪しておきます。

 

さて、個別の論点について下記にコメントします。

 

■黒田総裁は普段スーパーに行かない
立憲民主党白眞勲議員が、黒田総裁が普段スーパーに行っていないのではないかと指摘しましたが、日銀は、恐らく総務省が統計から算出している物価上昇率で物価を分析しています。
実は、物価上昇率の統計を集めるときには、調査員がスーパーなどに訪問して、ウォッチ対象の商品の値段を記録しています。
黒田総裁はもちろん有能な方なので、他の高度な仕事をするべきで、スーパーに行ってすべての品目をチェックするべきではありません。
そのような雑務に時間を取られてしまっては、取り組むべき仕事がおざなりになりますので、それこそ日本経済にとって有害以外の何物でもありません。

 

参議院比例代表で、自分の名前で票を集めて当選したわけではない白眞勲議員が、
経済の専門家ではないにも拘わらず、参議院選挙前のパフォーマンスとして次元の違う指摘をするのは、個人的には問題があるように思われます。
私の個人的な思いではありますが、参議院選挙が迫っていますが、比例代表立憲民主党には投票しないようにしたいと考えております。
(日本では自身の投票行動を語らないことが正しいと言われていますが、あえて公言します)

 

■値上げ許容度
日銀・黒田総裁の「家計が値上げ許容度も高まってきている」との発言に批判が殺到しており、SNS上には「#値上げ受け入れてません」というハッシュタグも登場し、釈明に追われる状況となっています。

 

日銀・黒田総裁の値上げ許容度が高まっていると判断した統計は、東京大学の渡辺努教授が、日本を含む5カ国を対象に定期的に行っている家計の調査が元になっています。

 

〇質問
 馴染みの店で、馴染みの商品の値段が10%上がったときにどうするか?

〇2021年8月
 ・その店でそのまま買うという人:43%
 ・他店に移るという人:57%

〇2022年4月
 ・その店でそのまま買うという人:56%
 ・他店に移るという人:44%

 

2021年では他店に移る人の方が多かったのですが、今年(2022年)の調査では10ポイント以上増加し、その店でそのまま買うという人の方が多くなっています。
このアンケート通りであれば、「値上げ許容度」は高くなっていると言えるとは思われます。

ただ、各専門家が指摘している通り、このアンケートだけで「値上げ許容度」を測定するには、論拠して弱い統計情報ではあると思います。

この点は、黒田総裁も認めており、「1つの有力なアンケート調査だ」、「1つの統計を強調しすぎたかもしれない」とも発言しております。


また、ベアによる雇用者総所得の増大で、値上げ許容度が上昇しているという別の調査結果もありますので、このアンケートだけで「値上げ許容度」が高くなっているとは言っておりません。

 

また、黒田総裁は強制貯蓄という言い方をしていますが、コロナ禍により貯蓄が増加しています。
2021年の総務省の家計調査報告によると、2人以上の世帯の平均貯蓄は5%増の1,880万円で、2002年以降で過去最高となっています。
1,880万円の貯蓄がある世帯は、5円、10円の値上がりは許容できるように思われます。
ちなみに、有価証券による貯蓄が伸びており、庶民の中でも、NISAなどの制度を活用した投資が広まっていると考えられます。

 

また、4月の値上げラッシュの主な要因としては、石油価格が高騰したことで、輸送コストや製造原価が増えたため、商品の価格に転嫁せざるをえなかった状況になります。
石油価格が高騰した原因としては、主要国がWITHコロナにシフトする中で、石油需要が急増したのだと考えられます。
今後、ロシアからの石油供給が止まる不安要素もありますが、コロナのリベンジ消費が落ち着けば、原油価格も安定してくるように思われます。
また、利下げにより石油価格の高騰による弊害を和らげることはできますが、効果が薄い点と、また、石油という1つの製品だけのために利下げを行う必要があるのかは疑問があります。

 

■円安

2022年3月からの円安の進行により、原材料の輸入コストが増加し、輸出企業以外の製造業の業績に悪影響を与えています。

 

前述で、円安のメリットのみを述べましたが、円安にも、円高にも、メリット・デメリットがあり、急激な為替相場の変動には問題があります。
円安は輸出企業の業績を押し上げる一方、原材料費の高騰により、製造業の製造原価を増大させ、利益を低下させます。
円高はその逆になります。
昨今、生産工場の海外移転により、円高の影響を受けにくくなっていると言われていますが、今のところ総論としては、円高が日本経済に及ぼす悪影響の方が大きいと言われています。

 

もちろん、黒田総裁も為替相場の動向は注視しており、3月からの円安に関して「かなり急な為替変動だ」のコメントを残しています。
恐らく、これ以上の円安が続けば、日本政府次第ではありますが、為替介入のコメントを行うと思われます。
為替(株価も含む)は少し先のトレンドを見て動きますので、黒田総裁が「為替介入」と口にしただけで、円売りが抑制され、円買いが増加することになります。
また、それでも止まらなければ、本当に為替介入に踏み切る可能性もあります。
利上げの議論が噴出していますが、段階がありますので、まずは為替介入ではないかと思われます。
市場関係は為替介入は140円なのか、145円なのかと、今か今かと待ち受けているように思われます。

 

円安による原材料価格の弊害が製造業の業績を悪化させているため、立件民主党の江田委員などの野党が、異次元緩和の出口戦略(利上げにシフトし、円安を是正)について黒田総裁に詰め寄った質問をしています。
野党も判っているはずですが、日銀総裁の言葉は非常に重いものがあります。
前述のとおり、日銀総裁の言葉だけで市場が動きますので、安易に出口戦略を、いつ頃行うのかなどは口にすることはできません。
秘密裏に、物価上昇率が5%を超えたら利上げに踏み切ろうなどと、異次元緩和の出口戦略を考えてはいると思われますが、経済が詳しくない庶民の安心させるために、出口戦略のことを説明することは日銀総裁の役割ではなく、政府の役割にように思われます。
そもそも野党は、答えられない人に聞いているので、政治的なパフォーマンスであり、本当に答えを得ようとしていないように思われます。

 

スタグフレーション

日本経済は、1990年代半ばから続くデフレを脱却するために、アベノミクスの一本の矢として、2%の物価上昇率を目指して、ゼロ金利政策を行いました。
日本経済にとってデフレ脱却は、必達の目標になりますので、今回の値上げによる物価上昇は、2.7%のため、許容範囲だと思いますが、昨今、経済学者の間でも、日本は悪い物価上昇、いわゆるスタグフレーションだと言われています。

スタグフレーションとは、不況で賃金が上がらないにもかかわらず、物価が上昇するという厳しい経済状態で、「スタグネーション」と「インフレーション」を組合わせた合成語になります。

 

円安進行を止めるために、諸外国が利下げにシフトする中、日本は利下げしなくても良いのかという議論があります。
欧州は7%程度、アメリカは8%程度の物価上昇率となっているため、インフレを抑えるため、金利引上げにシフトせざるをえない状況です。
日本では急激な物価上昇とニュースで騒ぎになっていますが、4月の各社の一斉値上げでも2.7%程度で、また、欧州と比較すると、たいしたインフレではないように思われます。
ロシアのウクライナ侵攻による値上げを控えていますが、その要因がなければ物価の上昇は一服するように思われます。
黒田総裁も物価上昇率の2%が安定的な状況となれば、出口戦略を検討すると言っていますので、この物価上昇が継続するようなことがあれば、金利引上げにシフトすると考えられます。

 

また、前述のとおり、日銀ができることは、お金を市場にばら撒くのか、抑制するのかしかありません。
お金をばら撒いて、物価を上昇させることはできますが、直接庶民の給料を上げることはできません。
市場にお金をばら撒いているため、銀行は既存顧客だけでは資金が余ってしまい、新たな投資先を探していますし、スタートアップ(ベンチャー)企業にも資金が回るようになりました。
中小企業では生産性向上やDX補助金がありますので、その資金を元手に、設備投資や人材確保を行って、生産性向上や新規ビジネス創出に取り組めば良いのですが、中小企業にコアコンピタンス(強み)がなく、成長できず、給与も上がっていません。
一方で大企業ではベースアップも増えている状況もありますので、当たり前ではありますが、給与が上がらないのは、単純に、個々の成長できていない企業の問題と言えます。

 

■日本の異常な価格に対する反応

日本の消費者は、値上げに関して非常にうるさいと言われています。

 

2016年4月、赤城乳業は25年ぶりに、アイスの「ガリガリ君」の価格を60円から70円に値上げしました。
当時、日経新聞に全面広告と、60秒のテレビCMを放送し、会長・社長をはじめ社員が頭を下げて、消費者に対して謝罪しました。
ニューヨーク・タイムズは、風変わりな東方島国の状況を、「棒アイス値上げで日本国民に謝罪」と題して1面で報じました。
「一般的に他の国ではコスト高による10円程度の値上げであれば、消費者の理解が得られるものだが、デフレ下の日本では10円程度の値上げもためらわれる」と「デフレの象徴」として紹介されました。
ちなみに、新聞広告やCMの効果なのか、値上げ以降、ガリガリ君の売り上げはむしろ10%増えたと言われています。
一例だけ取り上げても意味はないですが、テレビで町中の主婦から訊く消費者心理と、実際の消費者行動には乖離があるように思われます。


このように値上げに過剰に反応する国民なので、町中の主婦のコメントで判断するのではなく、統計データから値上げが許容できるのか冷静に分析する必要があります。
また、携帯電話料金が何千円も値下がりして、家計の負担を和らげている側面もありますので、それも含めて、本当に5円、10円の値上がりを許容できないのか、冷静に分析する必要があります。

 

■スーパーアキダイ・秋葉弘道社長のコメント

秋葉弘道社長は、スーパーアキダイをわずか一代で従業員200人を抱える企業へと成長させた敏腕社長です。
スーパーアキダイは生鮮食品を中心に、激安で販売するスーパーとして人気があります。
秋葉社長は昼食やトイレに行く時間も惜しんで、お客様のために頑張る努力家です。
最近、テレビではコメンテーターのように社会問題をコメントするようになりました。
本件に関しては下記のように語っています。

「5円、10円の値上がりでも皆、敏感になっている。
受け入れているわけではなく、買わなければ生活ができない」

スーパーアキダイは激安で有名なため、訪れるお客さんは、5円、10円の値上がりでも敏感な顧客層が集まっていますので、少しの値上げでもスーパーアキダイの売上に影響します。
また、経営方針が薄利多売になりますので、仕入価格が少しでも上がると、スーパー側で利益を削ることが難しいので、価格に転嫁せざるを得ず、原価高騰には過敏になっていると思われます。
そういった意味では、値上げに過敏な人たちがどう思うのかという参考情報にはなりますが、このコメントが日本の消費者全員を代表した意見のように、テレビが報道するのは誤っていると思います。
また、秋葉社長には国民を代表した意見を言った意図がないようにも思われますので、テレビの切り取り方が、秋葉社長に失礼であるように思われます。

 

■対策はどうするべきなのか?

円安による原材料価格の高騰が、製造業の業績を悪化させているため、日銀は利上げに踏み切ればよいでしょうか?

利上げに踏み切る場合、日銀は国債の買い入れを減らし、市場に出回っているお金を減らしますので、これまで資金が余っていた銀行を中心に、企業に積極的な融資を行ってきましたが、融資を控えることになり、各企業の資金が不足し成長が止まることなります。
足元で設備投資が持ち直してきていたのに、腰砕けになってしまい、中小企業やスタートアップなどの成長が遅れ、景気は冷え込み、給与も下がってしまうと考えられます。

 

また、日本は、財政の1/3を国債で賄っている借金大国ですが、これだけ国債を発行しても、日本国が破綻しない理由の1つとして、日銀が大量の国債を引き受けている側面があります。
一説には、日銀は国の銀行なので、日銀が国債を購入した場合、返さなくて良く、いくらでも借金できるのだとも言われています。
コロナ化で大盤振る舞いの財政が続いていましたが、日銀が国債の購入を減らしてしまった場合は、政府は緊縮財政に取り組まないといけなくなりますので、それにより補助金や研究開発費が抑制され、中小企業などの支援がなくなります。

 

経済専門家の一部では、このままゼロ金利政策を続けても、原材料価格の高騰により製造業の業績が悪化し、利上げにシフトしても、投資が抑制されて、景気が落ち込むため、どちらの選択肢にも課題があり、日銀は袋小路に陥っているのではないかという指摘があります。
確かにそれは正しいと考えらて、これだけゼロ金利政策を行って企業への投資を促していても、新たな産業やサービスなどが生まれないのは、コアコンピタンスを持たず、新しい発想のできる社員がいない古き中小企業が生き永らえていることが問題のように思われます。
GAFAを中心とする新たな企業がグローバル経済を席巻するようになりましたが、日本も同様に古き企業は再編・整理し、スタートアップなどの新たな企業が成長する必要がありますが、日本政府の中小企業優遇政策により古き企業が守られており、企業の新陳代謝が進みません。
日銀は金をばら撒くか、抑制するかしかできませんので、庶民の暮らしを良くするためには、黒田総裁を糾弾しても意味はなく、当たり前ですが、各企業が努力して成長を成し遂げ、業績を拡大する必要があります。